Gudrun Bornhoefft, Peter M. Matthiessen共編[i]
多くの諸外国同様、スイスにおいてはCAM(補完代替医療)に関する、需要・利用・および理解度が高い。しかしまた、CAMは有効でなく有害であるという懸念もある。
それを受けて スイス政府 は、1998年より5年間、暫定的に、人智学(シュタイナー医学)・ホメオパシー・中医学・フィトセラピー(植物療法)・ニューラルセラピーを、自国の健康保険制度に組み入れた。さらに、同政府は上記のCAMに関する評価プログラムを設定した。
彼らは、ホメオパシーの有効性・臨床実績・妥当性・安全性・経済性について検証し、2006年11月に、ドイツ語でそれを出版した[ii]。このレポートの英語版は、物議を醸したShang 達の 論文(5.3章参照)に再考察が加えられる形で、部分改訂され、2011年12月に出版された。
従来的評価法と異なり、このHTA(健康技術評価)レポートには、統計学的調査法のみならず、観察的調査法・改善事例・縦断的コホート調査法を含んでいる。従って、このレポートには、有効性・安全性・費用の評価に関する高いEBMがあり、レビュー・臨床報告以上に妥当である。
よって、おそらくこのレポートは、ホメオパシーに関する最近の科学的調査の中で、最も包括的かつ本格的であると言える。
スイスにおいて、ホメオパシーは長い伝統がある。ホメオパシーは、医師と、医師以外の治療家により診療されており、二つのホメオパシー病院がある(the Clinica Santa Cruce in Locarnoの腫瘍専門科およびThe Aeskulap Clinic in Brunnenの一部)。しばしば需要は供給を上回り 、長い順番待ちになっている。(p.93)
スイスにおけるホメオパシー医療では、厳密に患者の個別性を鑑みて、症状の全体像から、シングル・レメディーを処方するという、クラシカルのアプローチが主流である。複合レメディーを用いるホメオパシー・アイソパシー・臓器レメディーを用いるホメオパシーは、ほとんど見られない。(p.92)
興味深いことに、このレポートは、(シングル・レメディーの)複合調剤もしくはコンビネーション・レメディーの使用について、短期的使用では、あまり深刻でない急性状態を緩和するかもしれないが、長期的使用あるいは頻回使用においては、症状の全体像をかく乱し、レメディーによるプルービングを誘発し、以後のクラシカル・アプローチによる治療をより困難にし得る、と述べている。(p.13)
ホメオパシーのレメディーは、ドイツのthe German Homoeopathic Pharmacopoeia[iii] の製造法に従って調剤され、薬局で販売されるか、スイスの専門的なメーカーから直接配送される。
ホメオパシーについての研究は、植物や動物を用いた実験と、人間の細胞を用いたin vitroの実験があるが、そのような臨床前実験では、ホメオパシーのレメディーが調整機能をもつこと(バランスを整え、正常化するなど)が、示されている。(p.19)
ホメオパシーの評価に関して、懐疑論者はしばしばRCTを要求する。しかしそれらが本当にホメオパシーの有効性を示せる方法であろうか?懐疑論者はまた、EBMに関する議論で、殊に心理療法のような、複雑な医療システムに適応可能かという問いの際、それを無視する。(p.20)
レポートのp. 28-29に、RCTの妥当性に関する要点がリスト化されている。
ホメオパシーにおいては、クライアントの個別の症状の全体像に基づいて、レメディーが正確に選択された時にのみ、有効となる。プラセボ処方では、“内部的 有効性”(“療法と研究結果の関係性の強度”:p.32参照)と、“外部的有効性”(需要のあるターゲット群への譲渡を指す)の両方ともが減じる。(p.32)
従って、“ホメオパシーの専門家は、ホメオパシーの臨床試験(RCT試験)の大部分が不適切な手法で指導され、試験計画はホメオパシーの原理を無視したものであり、これらにより偽陰性結果を増やしている”、と指摘するが、近年でもそのような研究が数件行われている。(p.16)
しかしながら、実際の世界情勢において、クラシカル・ホメオパシー治療の全体像を評価できる疫学的な調査や研究の方が、より適切であると思われる。(p.20)
HTAレポート編集に当たり、著者は、認定ガイドラインに従って、方法論の専門家、専門協会、諮問機関等と密接に連携した。(p.48)
“ホメオパシー”というタームを用いて、22個のデータベース(p60)が検索され、23000項目が検出された。133件のRCT試験、296件の臨床試験、393件のレビュー/メタ分析論文、1件のコホート研究、59件のケース・スタディ、であった。(表6.3)
ホメオパシーの臨床効果における評価に関する文献検索により、60件のレビュー論文が確認された。そのうちで、事前決定された包括/除外規定を満たしたのは、合計667件の研究を分析した22件のレビュー論文だった。(p.103)
これら22件についての考察は、“現代医療に用いられる優位性基準は、翻案無しに、ホメオパシー研究について用いることが、必ずしもできない”ことを明らかにした。
特に、RCT法や二重盲検法は、実際の臨床を正当化できない。なぜなら、ホメオパシーのような包括的手法は、患者が意識的にその療法を選択したことを想定しなければいけないから。従って、ホメオパシーの場合、RCTの結果を、実際の臨床に当てはめることは、容易にできない(p.112)。10件のレビュー論文が、そのようなRCT法や二重盲検法を含んでいたので、レポートの著者は、“偽陰性結果リスクがあまりにも高い”(p.115)と判断し、これら10件のケースにおける有効性の格下げを却下した。
大部分の研究では、ホメオパシー治療において重要な、“外部的有効性”の要因が、記載されていない。例として、(p.114)
よって、“外部的有効性”を犠牲にして、“内部的有効性”が優先されているので、これらの研究結果は、実際のホメオパシー臨床に対して、ほとんど価値が無い“と、結論づけられる。(p.118)
にもかかわらず、“22件のレビュー中、少なくとも20件は、ホメオパシーの有効性を示した”と結論づけられた。レポートの著者は、“5件の研究結果は、ホメオパシーの有効性をはっきり証明している”と判断している。(p.117)
ホメオパシー的観点から付記すると、“膨大なデータと陽性結果を含むが、(クライテリアによってレポート考査から)除外されている、幾つかのレビューや考察は、導入されたものよりも、はるかに重要だった。これらの除外された論文は、ホメオパシーの陽性結果により、その有効性の仮説を明らかに裏付けている”と言える。(p.124)
HTAは、上部呼吸器感染症とアレルギー反応に対するホメオパシーの有効性についても、体系的に調査している。11件の個別処方例(クラシカル・アプローチによる)、4件の複合的処方例(プラクティカル・アプローチによる)、7件のコンビネーション・レメディー処方例、7件のアイソパシー例、による、計29件の試験データが評価された。23件のみが、“内部的有効性”と“外部的有効性”を査定可能だった。4件だけが、よい“外部的有効性”を示した。個人的処方をした1件が、現代医療よりホメオパシーが優位であると、明示した。
“内部的有効性”と“外部的有効性”のデータが制限されていたにも関わらず、レポートの著者は、“この試験結果は、上部呼吸器のアレルギーと感染症に関する、ホメオパシーの有効性の可能性を裏付けた”と結論づけている。(p.145)
この著者は、“Friese 達(1997c)とFrei(2001)の研究の両方が、ホメオパシーによる治療群では、抗生物質の使用量を明らかに減らせた”と、記載している。Eizayaga とEizayaga (1996)による研究は、ホメオパシー治療を、ステロイド依存性の喘息治療と併用した場合、薬剤使用量を減らす効果と、薬剤による深刻な副作用を緩和する効果を示している。(中略)これらの結果は、臨床的にのみ意義があるのでない、(中略)経済的にも有意義である。ホメオパシー治療はよりコスト削減効率がいいからだ。(p.144)
幾つかの研究は、CAMを用いる患者の人口動態における特徴に注目している。CAM利用者には、以下の傾向がみられる。(p.79)
ホメオパシー支持者の多くが、副作用が無いと主張しているが、レポートの著者は、“あまりに頻繁に服用する場合のような、不適切な使用は、望ましくない反応を引き起こすことがある”と、強調している。(p.160)
専門家でない人の処方により、かなり低いポテンシー(12C以下)のレメディーが用いられた場合、毒性の作用が起こりうる(たとえば、ヒ素・鉛・水銀など)。さらに、著者はこう指摘する:
要約すると、“スイスにおいて医療現場で用いられるホメオパシー療法は、専門的に施行された場合、ほとんど副作用がなく、中程度か高いポテンシーの使用は、毒性や臓器への潜在的な影響がない。”(p.162)
著者は、Schueppel 達(2003)とMaxion-Bergemann達を引用することで、総括している。「現行の薬価を考慮すると、ホメオパシーの利用は薬剤費の支出を軽減しうる」「現時点でのデータは、ホメオパシー利用によるコスト削減の可能性を示唆している」。(p.188)
“包括的かつ目的別に施行されたHTAレポートにより、個別のCAMの影響が検討され、ホメオパシーにおいては殊に有効であり、スイス国内利用状況下においては、安全であり、試験結果から判断される限り、コスト効率も良いと、確認された。”(p.3)
[i] Gudrun Bornhöft, Peter F. Matthiessen; “Homeopathy in Healthcare - effectiveness, appropriateness, safety and costs. An HTA report on homeopathy as part of the Swiss Complementary Medicine Evaluation Programme”, Spinger (9. Dezember 2011)
[ii] Gudrun Bornhöft, Peter F. Matthiessen; “Homöopathie in der Krankenversorgung. Wirksamkeit, Nutzen, Sicherheit und Wirtschaftlichkeit”, Vas-Verlag für Akademische Schriften (15. November 2006)